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どうやれば日本は復活できるのだろうか?:後編

2.モジュール化とはなにか。

まず、モジュール化とは何か、モジュラーデザインとは何かについてお話しします。
モジュラーデザインとは、元マツダのエンジニアである日野三十四さんが提唱された、標準化された中間品の組み合わせにより最終製品の設計を行う方法、です。

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    画像は日経ものづくり2012年9月号より
日野さんは、マスプロダクションとカスタマイゼーションという相反する考え方を両立させ、効率的に実現するための手法を提唱されました。
ポイントは、日本企業が得意としてきた摺り合わせで設計されてきた製品を、単に欧米企業が得意とする組み合わせによる設計に変えるのではなく、製品企画や概念設計段階からの製品開発のプロセスを整備し、一括企画・一括設計にしていくやり方に進化させ、品質向上、コスト低減、開発期間短縮および部品のモジュール化という4拍子揃った設計手法であるということです。
また、製品の仕様や、性能、レイアウトなど部品の仕様を決定する設計パラメータをモジュール化することにより必然的にプラットフォーム化や部品共有化が促進されるというメリットもあります。
ちなみに、日野さんは、マツダに30年以上勤務され、エンジン開発や技術標準化を推進され、2000年に経営コンサルタントとして独立されています。
その後、サムスンを皮切りに国内の大手メーカに対してモジュラーデザインのコンサルティングを行われており、実践モジュラーデザインという本を執筆されています。
とても難しい本ですが、一度手に取って頂くことも良いかなと思います。

モジュラーデザインというと部品標準化と認識している人が多くいます。
部品標準化は、総部品種類数を削減して、部品管理コストや量産性向上による部品コストの削減を狙う手法ですが、モジュラーデザインは、より少ない部品種類でより多くの顧客を掴むための手法です。
モジュラーデザインを本当の意味で理解するには、部品標準化との違いをきっちりと理解する必要があります。
モジュラーデザインの先進企業としては、自動車メーカであるスウェーデンのスカニア社があげられます。
日本では、スカニア社のことを知っている人は少ないと思いますが、スカニア社は、大型トラックの分野では、ダイムラー、ボルボに次ぐ世界第3位の生産台数を誇っています。
2006年にドイツのフォルクスワーゲンが筆頭株主となり、その後のフォルクスワーゲンのMQBというモジュラーデザイン戦略に多大な影響を与えています。
スカニア社は、多様な製品を、少数のモジュラーコンポーネントの組み合わせで実現しています。
スカニア社は、顧客要求に応じて機能を追加するのではなく、既に用意しているものから引き算で製品を実現する手法をとることで、個別設計をしないで良いクルマ作りを行っています。
スカニア社は、モジュラーデザインを使ってクルマ作りを行うことで、同業他社に比べて圧倒的な経営成績を残しています。
ダイムラーやボルボが営業利益率一けた台であるのに対して、スカニア社は16%もの値を出しています。
ダイムラーやボルボは、スカニア社のクルマをティアダウンすることでスカニア社の真似をしようとしましたが、スカニアが行ったモジュラーデザインを理解することができず真似ができませんでした。
スカニア社を真似しようとして失敗したダイムラーではないですが、モジュラーデザインに取り組んで失敗するケースがよく見られます。
何故、上手くいかないのでしょうか。
私たちが分析した結果、失敗しているケースにおいては、適用すべき設計手法の違いを理解していない、ということが判りました。
失敗しているケースでは、リユース設計が適用されていました。
リユース設計とは、再利用による設計と再利用のための設計です。
このため、部品やモジュールの標準化や共有化では有効ですが、新しい設計個所を伴う場合には無理な制約条件を加えることになり、本来の目的を実現することができず失敗してしまいます。
個別受注生産型製品の場合には、往々にして、毎回設計の新規要素がある製品開発を伴う場合があり、これに対応するには、将来の展開を考慮した設計であるレバレッジデザインを適用する必要があります。レバレッジデザインは、より少ない部品種類数でより多くの顧客を掴むことができるモジュラーデザインを行う上で非常に重要な設計手法になります。
レバレッジデザインについては後ほど、詳しくご説明いたします。
数年前から日本の主要メーカでもモジュラーデザインに対する取り組みが行われていますが、上手くいっているケースは少ないように見えます。
モジュラーデザインの導入に失敗するケースで多く見られるのが、日本企業で頻繁に犯してしまう、手段が目的化するという間違いです。
モジュール化を、組み合わせ設計による、部品コストダウンや開発工数短縮と考える企業が多くみられます。
その結果、モジュール化を進めても、標準化、共用化と同じ効果しか出せないことになります。
モジュラーデザインの目的は、あくまでも、より少ない部品種類数でより多くの顧客を掴む、ということです。
では、多品種少量生産型や個別受注型の企業では、どのような取り組みを行えば良いのでしょうか。
モジュラーデザインは、標準化でもなく、共有化でもなく、レバレッジデザインによる、より少ない部品種類数でより多くの顧客を掴むための手法です。
まずは、しっかりと、このことをご理解頂きたいと思います。
このことをご理解いただけた後、さて、どうやって実現しようか、と悩むことになります。
と言いますのも、世の中で紹介されているモジュラーデザインに関する手法の多くが、リユースデザインをベースにした標準化や共有化を対象にしているものが多いからです。
私たちがご提案する手法は、レバレッジデザインをベースにしており、3つのアプローチを用いてモジュラーデザインを行っていきます。
3つのアプローチは、要件のモジュール化のための顧客視点のアプローチ、機能構成のモジュール化・製品レイアウトのモジュール化のための設計視点のアプローチ、部品のモジュール化のための生産視点のアプローチ、から成っています。
これら3つのアプローチの関係を品質機能展開表で表現します。 すなわち、モジュール化された要求・要件とモジュラー化された機能構成の関係を示し、モジュラー化された製品レイアウトとモジュラー化された機能構成の関係を示し、モジュラー化された製品レイアウトとモジュラー化された部品の関係を示します。
これにより、品質機能展開表の中に製品をモジュラー化するための全ての情報を整理することができます。
このアプローチによるモジュラーデザインは、技術的には難しいものではありませんが、実行においては幾つかの壁が存在します。
まず一番に挙げられる壁は、モジュラーデザインによって実現する対象製品が本当に顧客要求を満たしているのか、ということであり、これは、顧客の潜在要求を満たす新しい仕様の織り込みを行うことで乗り越える必要があります。
まさにレバレッジデザインになります。
次の壁は、機能数や部品点数が多い場合、品質機能展開表にデータを整理するだけでも結構な工数と期間が必要になるという現実に直面します。
部品点数が数百点ぐらいの製品でも、要件数は200から300、機能構成も200から300程度になります。
これに関しては、少人数で短期間でデータを整理する方法の確立が必要になります。
最後の壁が、コストです。
モジュール化手法の導入目的に、製造原価で大きなウエイトを占める個別設計の費用を削減したいということがありますが、単にモジュール化を進めていくと確実にコストは上がります。
モジュール化を行う際には、併せてコストダウンの取り組みも必要になります。

以上、モジュール化とは何かについて説明しました。

続編では、モジュラーデザインの進め方について説明します。

 (参考情報)

  日野さんの本以外でモジュール設計を行う上で参考になる書籍を掲載します。

 
 
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